介護施設の送迎中の事故とは?主な原因と高齢者を守るための予防策

デイサービスやショートステイなど、介護施設の利用者にとって欠かせない送迎サービス。
自宅と施設を安全につなぐ大切なサービスですが、送迎車の乗り降りや移動中には、転倒や交通事故など、さまざまな危険が潜んでいます。特に高齢者は、転倒による骨折や頭部のけがが、その後の生活に大きな影響を及ぼすこともあります。
介護施設では、運転時の安全確認だけでなく、乗降介助や利用者の引き渡しまで含めた対策が必要です。
この記事では、介護施設の送迎中に起こりやすい事故や原因、事故を防ぐための具体的な対策について、最新の公的資料をもとに解説します。

  介護施設の送迎中に起こる事故とは?


介護施設の送迎中に発生しやすい4つの事故

    ①送迎車の乗り降りで起こる転倒

送迎時に注意したい事故のひとつが、車の乗り降りに伴う転倒です。 高齢者は、筋力やバランス能力の低下などにより、ちょっとした段差や足元の不安定さでも転倒することがあります。 特に、次のような場面では注意が必要です。

  • 車に乗る際、足を十分に上げられずにつまずく
  • 車から降りる際、地面に足を着く前に体重をかけてしまう
  • 雨や雪で路面が滑りやすくなっている
  • 車いすをスロープに進入させる際、車輪が脱輪する
  • ドアの開閉時に、手や足を挟んでしまう


実際に、消費者庁が公表した2025年の重大事故情報には、通所介護施設の送迎で、車いすを車両に乗せる際に後輪がスロープから外れ、利用者が車いすごと転倒して重傷を負った事例が掲載されています。
事故を防ぐためには、利用者の身体状況に合わせた介助と、車いす・スロープの正しい使用が欠かせません。

    ②車いすの固定不良やシートベルトの装着ミス

車いすを使用する利用者の送迎では、車いすの固定やシートベルトの装着方法にも注意が必要です。 固定が不十分なまま走行すると、急ブレーキや衝突時に車いすが動き、利用者がけがをする危険があります。
また、シートベルトが適切に装着されていない場合も、身体を十分に保護できない可能性があります。
送迎前には、車両に対応した固定装置を正しく使用し、車いすやベルトの状態を確認しましょう。利用者の姿勢や身体状況に応じた安全な乗車方法を、職員全員が理解しておくことも重要です。

    ③送迎車の交通事故

送迎中は、一般の交通事故と同様に、追突事故や交差点での事故、他の車両との接触事故などが起こる可能性があります。 介護施設の送迎では、利用者の体調や車内の様子が気になり、運転への集中が妨げられることも考えられます。
また、利用者の乗降に気を取られたり、送迎時間に間に合わせようと焦ったりすることも、安全運転の妨げになりかねません。 運転中は利用者への対応を控え、必要な場合は安全な場所に停車してから対応することが大切です。

    ④車内への利用者の置き去り

送迎後に利用者が車内に残されたままになることも、見過ごせない事故のひとつです。 送迎終了後の確認が不十分だったり、職員同士の引き継ぎが曖昧だったりすると、車内に利用者が残っていることに気づかないおそれがあります。
特に、認知症のある方や、自分から周囲に助けを求めることが難しい方の場合、発見が遅れるリスクがあります。
気温が高い時期には、車内温度の上昇によって熱中症などの健康被害につながる危険もあります。
送迎終了後は、車内の座席や足元まで目視で確認し、利用者が全員降車したことを確実にチェックする仕組みを整えましょう。

  送迎中の事故を防ぐための5つの対策

    送迎前に利用者の状態と車両を確認する

送迎前には、利用者の体調や歩行状態、車いすの使用状況などを確認します。 いつもよりふらつきがある、体調がすぐれないといった変化があれば、無理に移動を進めず、必要に応じて看護職員などと相談しましょう。
車両についても、タイヤやブレーキ、スロープ、車いす固定装置、シートベルトなどを確認し、安全に送迎できる状態を整えます。

    乗降介助の手順を統一する

乗降時の事故を防ぐには、職員によって介助方法が異ならないようにすることが重要です。 例えば、次のようなルールを設けます。

  • 安全に乗降できる場所に車を停車する
  • 利用者の動きを確認しながら声を掛ける
  • ドアを閉める前に、手足や衣服が挟まっていないか確認する
  • 車いすはスロープに対して適切な向きで進入させる
  • 固定装置とシートベルトを確認してから発車する

「気をつける」といった曖昧な指示だけでなく、具体的な動作までマニュアルに定め、職員間で共有しましょう。

    運転中の安全を最優先する

安全運転を徹底するためには、運転中に利用者の様子が気になっても、運転者が脇見や操作をしない体制づくりが必要です。 可能であれば、運転担当者と利用者の介助・見守り担当者の役割を分けましょう。
また、送迎ルートや時間に余裕を持たせ、焦らず運転できる環境を整えることも大切です。

    乗車人数と降車人数を確実に確認する

利用者の置き去りを防ぐためには、送迎開始時と終了時の人数確認を徹底します。 具体的には、次のような対策が考えられます。

  • 乗車時に利用者の氏名と人数を確認する
  • 送迎先ごとに降車したことを記録する
  • 送迎終了後、車内を前席から最後列まで確認する
  • 確認した職員がチェック表に記入する
  • 確認漏れが疑われる場合の報告・連絡手順を決める

確認を個人の記憶や注意力だけに頼らず、記録と手順によって防ぐ仕組みをつくりましょう。

    事故やヒヤリ・ハットを記録し、再発防止につなげる

事故を防ぐためには、実際に起きた事故だけでなく、事故につながりかねなかった「ヒヤリ・ハット」の共有も重要です。
例えば、「スロープ上で車いすが傾いた」「乗降時に利用者がふらついた」「送迎先の玄関に段差があった」といった情報を記録します。記録した情報を職員間で共有し、発生原因を分析することで、同じような事故の予防につなげられます。 事故が起きた際の報告先や家族への連絡方法、救急要請の判断なども、事前に確認しておきましょう。

  送迎中に事故が起きた場合の対応

万が一、送迎中に事故が発生した場合は、利用者の安全確保と迅速な対応を最優先します。
基本的な対応の流れは次のとおりです。


  • 安全を確保する:車両を安全な場所に停車し、二次事故を防ぐ。
  • 利用者の状態を確認する:意識や呼吸、出血、痛みなどを確認する。
  • 必要に応じて救急要請する:重傷が疑われる場合や緊急性が高い場合は119番へ通報する。
  • 施設へ報告する:管理者や責任者に速やかに連絡する。
  • 家族などへ連絡する:施設の手順に従い、事故の状況と対応を伝える。
  • 記録と原因分析を行う:発生時刻、場所、状況、対応内容などを記録し、再発防止策を検討する。

事故の状況によって必要な対応は異なります。あらかじめ緊急時の対応マニュアルを整備し、職員研修を通じて実践できるようにしておきましょう。

  まとめ

介護施設の送迎中には、交通事故だけでなく、乗降時の転倒、車いすの固定不良、車内への置き去り、送迎後の転倒など、さまざまな事故が起こる可能性があります。
事故を防ぐためには、運転者の安全運転だけに頼るのではなく、利用者の状態確認、乗降介助の手順統一、車内確認の徹底、事故情報の共有など、施設全体で安全管理に取り組むことが大切です。

また、事故が起きた際に適切な対応ができるよう、連絡体制やマニュアルを定期的に見直すことも欠かせません。 利用者が安心して介護サービスを利用できるよう、日々の送迎業務を見直し、安全な送迎体制づくりにつなげていきましょう。


※本記事は、介護施設の送迎時における事故予防について一般的な情報を紹介するものです。具体的な対応は、利用者の状態や施設の運用、関係法令・自治体の基準などに応じて確認してください。

出典・参考資料

・厚生労働省: 介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン[PDF]
・消費者庁: 車椅子使用者を自動車で送迎中の事故[PDF]
・消費者庁:消費者安全法の重大事故等に係る公表について[PDF]