風水害

介護施設のBCP・防災マニュアル【風水害編】

台風・豪雨による風水害対策は万全ですか?
台風・豪雨による洪水や土砂災害などの風水害は毎年のように甚大な被害を引き起こしています。平成28年・台風第10号の対応等に関するアンケート調査※1では、水害や土砂災害のおそれのある地域に立地している介護施設が57%もあり、施設としての対応が求められます。
ここでは台風の季節になる前に、介護施設としての風水害対策について再確認していきたいと思います。

風水害を起こす台風の危険性とは

甚大な被害をもたらした平成の台風といえば平成16年に来た台風第23号(アジア名:トカゲ)と平成23年に来た台風第12号(アジア名:タラス)になります。死者はどちらも80名※2を越え、自然の怖さを味わった台風と言えます。
介護施設として大きい被害を被った台風といえば、2016年台風第10号による川の氾濫で被害が出た「グループホーム楽ん楽ん」※3です。この事件は入所者9名が亡くなる痛ましい事故で、施設としての対応を再確認させるものでした。もしもう少し早く避難をおこなうことができていたら…また違った結果になったのかもしれません。

追記:2018/7/27
平成30年7月に西日本で記録的な豪雨災害がありました。237件の高齢者福祉施設で雨漏りや床上浸水等の被害が出ている模様です。まだ8月、9月と台風が近づき豪雨災害を起こす可能性があります。被害が出る前に事前の準備をおこないましょう。
詳しい災害状況につきましては下記URLをご覧ください。
平成30年7月豪雨による被害状況等について

洪水による危険

長雨や急激な降水量によって引き起こされる洪水は、川の氾濫を招きます。特に川から近い建物に関しては水圧で流される危険性だけでなく川から流れてきたものに押しつぶされる可能性も含んでいる点です。
避難をする際、車での移動は危険です。早いうちなら良いのですが、氾濫による冠水が始まっていた場合には使用せず徒歩で高台に移動することが大事になります。徒歩での避難の場合、水位が50cmを超えるようでしたら無理に避難せず施設内にある一番高い位置へ移動することを心がけましょう。

車で移動できなくなる水位
徒歩で移動できなくなる水位
河川の氾濫の前兆現象※4
  • 短時間で危険水位を超え、強い降雨が続く。
  • 堤防の川側が崩れ始めている。
  • 堤防の側面から水が漏れだしている。
  • 堤防にひび割れが生じている。
  • 堤防近くの地盤から水が噴き出ている。

土砂災害による危険

土砂災害には『がけ崩れ』『地すべり』『土石流』の3つの種類があります。特に台風により起こりやすいものは『土石流』で山腹や川底の石、土砂が一気に下流へと押し流される現象となります。土石流の怖いところは時速20~40km程(一般道を車が走行する程度)の速さで人家を巻き込む点です。このことから避難をする場合、警報が出た時点で早めに行動を起こすことが重要になります。

土砂災害の前兆現象※5
  • 事前に、不気味な石のぶつかり合うゴロゴロ、ゴットンゴットンという腹にひびく音がしていた。
  • 直前では、川の水位が引くとともに、ゴーっという聞いた事のない音と臭い泥の臭いがした。
  • 堤防の下で流れてきた石があたってゴトゴトという音がした。
  • 橋や堤防の流失直前には、泥臭い匂いともに堤防が地響きしはじめ、水がうなるような音をたててきた。
  • 雨が続いているのに、川の水が減っている
  • 「山鳴り」といって、山全体がうなっているような音がする
  • 川の流れが濁ったり、流木が混じっている

平成23年(2011年)台風第12号による被害の写真※6

平成23年(2011年)台風第12号による被害の写真

介護施設を守るBCPの推進【風水害前の対応】

立地場所の確認

災害に巻き込まれやすいかどうかは、施設の立地によって左右されます。河川の近くや山の傾斜付近に施設がある場合は、より警戒を行わなくてはいけません。まずは自分の施設が警戒区域に入っているのか確認しましょう。調べる方法は国土交通省が運営しているハザードマップ、または各県が作成した非常災害対策計画、マニュアルをご覧いただくのが最適です。
全国ハザードマップについては下記URLから。県別・非常災害対策計画、マニュアルは末尾に一覧のURLを用意しました。介護施設用に書かれたものがある場合は”介護施設用資料”、全ての団体、施設に向けて作成されたものには”全施設用資料”と記載しております。

全国ハザードマップ情報
国土交通省ハザードマップポータルサイト
国土交通省が運営する、「ハザードマップポータルサイト」です。身の回りでどんな災害が起こりうるのか、調べることができます。

平常時の確認

施設の立地について把握した次は、平常時に準備しておかなくてはならない項目について確認していきましょう。

  • ☑ 地盤、地形などの立地条件の確認と起こりうる災害予測
  • ☑ 電話が通じない場合の通信手段(衛星電話など)の確保
  • ☑ 夜間に被災し、かつ、停電となった場合の照明は確保されているか
  • ☑ 職員間で連絡が取れるよう、緊急連絡網を作成
  • ☑ 施設外の関係者の緊急連絡先一覧作成
  • ☑ 電話等通常の連絡手段が使えない場合の緊急時の連絡方法を検討
  • ☑ 救護が必要な入居者等をまとめた一覧を作成
  • ☑ 作成した一覧は、同時に被災しないと考えられる数箇所に保管
  • ☑ 各職員の総括責任者及び役割分担
  • ☑ 入居者の避難方法、点呼等の仕方の確認
  • ☑ 施設入所者等が安全に避難できる時間を考慮し、早めの避難の必要性判断
  • ☑ 避難時の適切な服装(雨具、防寒具、ズック、長靴、ヘルメット等)の用意
  • ☑ 状況別の避難先設定(施設内、広域避難場所)
  • ☑ 避難経路を複数設定
  • ☑ 送迎中に被災した場合の避難場所等や避難経路を検討
  • ☑ 避難場所や避難経路をまとめたマップを作成
  • ☑ 家族等と避難場所等及び引き渡し場所について情報共有
  • ☑ 入居者等が自分自身で身を守る手段を学ぶ訓練を実施
  • ☑ 地域の行事へ積極的に参加し、防災に関する情報交換等をする
※4 防災ガイドBOOKより

避難警報の段階※4

避難警報には段階があり『避難準備情報』『避難勧告』『避難指示』と緊急度が上がっていきます。伝達については防災行政無線(戸別受信機を含む同報系)、緊急速報メール、マスメディアとの連携、広報車、インターネット(ホームページやSNS等)、コミュニティFMなど複数の媒体から情報を流します。

種類 発表時の状況 住民に求める行動
避難準備情報
  • 要援護者等、特に避難行動に時間を要する者が避難行動を監視しなければならない段階であり、人的被害の発生する可能性が高まった状況
  • (災害時)要配慮者は、立ち退き避難する
  • 立ち退き避難の準備を整えるとともに、以後の防災気象情報、水位情報等に注意を払い、自発的に避難を開始することが望ましい。
  • 特に、他の水災害と比較して突発性が高く予測が困難な土砂災害については、避難準備が整い次第、土砂災害に対応した開設済みの指定緊急避難場所へ立ち退き避難することが強く望まれる。
避難勧告
  • 通常の避難行動ができる者が避難行動を開始しなければならない段階であり、人的被害の発生する可能性が明らかに高まった状況
  • 予測される災害に対応した指定緊急避難場所へ立ち退き避難する
  • 小河川・下水道等による浸水については、危険な区域が地下空間や局所的に低い土地に限定されるため、地下空間利用者等は安全な区域に速やかに移動する
  • 指定緊急場所への立ち退き避難はかえって命に危険を及ぼしかねないと自ら判断する場合には、「緊急的な退避場所」(近隣のより安全な場所、より安全な建物等)への避難や、少しでも命が助かる可能性の高い避難行動として、「屋内での安全確保措置」をとる
避難指示
  • 前兆現象の発生や、現在の切迫した状況から、人的被害の発生する危険性が非常に高いと判断された状況
  • 堤防の隣接地等、地域の特性等から人的被害の発生する危険性が非常に高いと判断された状況
  • 人的被害の発生した状況
  • 避難の準備や判断の遅れ等により、立ち退き避難を躊躇していた場合は、直ちに立ち退き避難する
  • 指定緊急場所への立ち退き避難はかえって命に危険を及ぼしかねないと自ら判断する場合には、近隣のより安全な場所、より安全な建物等への避難や、少しでも命が助かる可能性の高い避難行動として、屋内でもより安全な場所へ移動する安全確保措置をとる

上記表から分かるように介護施設として避難行動をおこすべきは、『避難準備情報』時点です。これはひとりで動けない入居者の移動も考慮する必要性があるからです。
他にも忘れてはいけないのが、夜勤時の行動です。夜勤ではスタッフが減り、避難行動をおこすにしても手が回らなくなってしまいます。そこで日頃から地域の応援を頂けるよう協力要請、避難協定等の締結を汲み取っておくことが重要です。いざと言う際の連絡先を決め、早めの避難を心がけましょう。

追記:2019年5月30日
”平成30年7月豪雨を踏まえ2019年度出水期までに実施する具体的な取組及び避難勧告等に関するガイドライン(平成31年3月)改定版の公表について”が政府から発表されました。これにより災害時に、避難行動が容易にとれるよう、防災情報をわかりやすく提供するため住民がとるべき行動を5段階に分け、情報と行動の対応を明確化をしました。
警戒レベル 住民がとるべき行動 行動を促す情報
警戒レベル5 命を守る最善の行動 災害の発生情報
(出来る範囲で発表)
警戒レベル4 避難 ・避難勧告
・避難指示(緊急)
警戒レベル3 高齢者等は避難他の住民は準備 ・避難準備
・高齢者等避難開始
警戒レベル2 避難行動の確認 注意報
警戒レベル1 心構えを高める 警報級の可能性

内閣府(防災担当):避難勧告等に関するガイドライン

介護施設を守るBCPの推進【風水害後の対応】

警報後の行動手順

行動手順

洪水、土砂が来たら?風水害対応簡易チェックリスト

警報等が発表された場合※7
  • ☑ 情報の収集と防災対策のための職員参集
  • ☑ 市町村担当課、防災関係機関との連絡及び防災準備
  • ☑ 指示体制の一本化と職員への周知
  • ☑ 利用者及び職員への定期的な情報提供(及び緊急避難時の冷静な行動指示)
  • ☑ 初動体制の準備(避難方法の確認、警戒体制の準備)
  • ☑ 利用者の避難方法、点呼等の仕方、避難経路と責任者の確認
  • ☑ 状況別の避難先の選定(施設内、広域避難場所)
  • ☑ 避難時の適切な服装(雨具、防寒具、ズック、長靴、ヘルメット等)、移動手段準備
  • ☑ 避難手段、避難経路、誘導方法、避難名簿の準備
  • ☑ 被害予想に基づく家族等への引き継ぎの要否判断
  • ☑ 正確な情報を入手し、施設の立地環境に基づく災害予測と避難の必要性を判断
  • ☑ 施設入所者等が安全に避難できる時間を考慮し、早めの避難の必要性判断
  • ☑ 災害 対策本部等からの避難準備指示や避難指示への対応
  • ☑ 避難先と避難経路の選択
災害発生後の対応※7
  • ☑ 避難時、避難場所、避難生活での入所者の安全と健康管理への注意
  • ☑ 備蓄食糧、利用可能な設備や器具を利用して利用者の安全確保を実施
  • ☑ 負傷の状況に応じた応急措置と病院への移送
  • ☑ 施設、設備の点検と清掃の実施
  • ☑ 入所者を家族等へ引継依頼
  • ☑ 他の施設等へ受入依頼
  • ☑ 市町村など防災関係機関に状況を連絡
  • ☑ 必要な支援について要請

まとめ

大事なのは日頃の備えとすばやい避難

介護施設で重要なのは、ひとりで身動きできない入居者や認知症の方をいかに避難させるかです。通常の避難より時間がかかることを想定して行動することはもちろんのこと、効率的に避難させるため分担作業や地域の方々と協力体制を取ることも必要になります。それらの準備をするために日頃から避難訓練を実地し、いつ起こるか分からない災害に備えていきましょう。

ここでひとつ、避難を開始する際入居者へ一斉に知らせる館内放送システムを提案します。警戒情報に関して入居者が全員聞いているとは限りません。そこでハンディナース(PHS)または事務所にある電話機から各居室へ避難指示を出せる館内放送システムを導入してみませんか。すばやい指示による早期避難を実行できます。館内放送システムについて詳しくは下記のURLも見てみてください。

ワンボタンでらくらく館内放送連動(一斉呼出)
Yuiコールの「館内放送システム」ならお手持ちのハンディナース(PHS)や事務所にある親機からワンボタンで簡単に放送を流せます。簡単に流せるからこそ業務負担を軽減でき、効率化をはかれます

出典

※1 社会福祉施設等における利用者の安全確保等について
※2 気象庁:台風による災害の例
※3 内閣府:台風10号による豪雨災害への対応について
※4 防災ガイドBOOK
※5 災害の前兆と避難のしかた
※6 災害写真データベース
※7 社会福祉施設における災害対応マニュアル
他の災害についてはこちらから
介護施設のBCP・防災マニュアル【火事編】
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