介護施設のインフルエンザ対応法~2017年の流行と対策~
11月も気づけば終わりに差し掛かり、ぐっと寒くなりました。12月もまた全国的に平均より気温が低くなる日が多くなるそうです。気温が低くなると空気は乾燥します。そこで不安なのが、インフルエンザなどの感染症ですね。
施設のような密閉された空間で、抵抗力の低い高齢者が抱える感染リスクは高く対策は必須です。今回は、今年流行するインフルエンザの最新情報と、インフルエンザの脅威から利用者・施設を守る方法についてお知らせします。
今年流行るインフルエンザとは?
流行る時期
日本では、インフルエンザは例年12月~4月頃に流行し、例年1月末~3月上旬に流行のピークを迎えます。しかし11月現在の段階で、全国の保育所・幼稚園・小学校・中学校高等学校ではすでに全国100校以上で学級閉鎖が行われているそうです。
学校と同じように介護施設でも、一人が発症すれば次々と感染が広がっていく危険性がありますので注意が必要です。
流行る種類
インフルエンザにはA,B,Cの3型があります。
比較的症状が軽度なC型、冬に流行的な広がりを見せるのがA型とB型で、特にA型はインフルエンザウイルスの中でも症状が重く、最も流行しやすいと言われています。また、A型には100種類を超える型が存在します。
国立感染症研究所によると、2017年~2018年冬にかけてのインフルエンザワクチンとしてA型・B型の下記4種類が挙げられています。
○A型/Singapore(シンガポール)/GP1908/2015(IVR-180)(H1N1)pdm09
○A型/Hong Kong(香港) /4801/2014(X-263)(H3N2)
○B型/Phuket(プーケット)/3073/2013(山形系統)
○B型/Texas(テキサス)/2/2013(ビクトリア系統)
インフルエンザワクチンは毎年つくりかえられており、例年世界各国で流行したウイルスの株からその後の日本での流行を予測して作られています。
流行しやすい年齢層はウイルスの型によって多少異なりますが、特にインフルエンザA型は、肺炎などの合併症を起こし重症化することが多く、抵抗力の少ない高齢者は注意が必要です。
今年は殺人インフルエンザが危険?!
今回の流行種に含まれている「H3N2」は、世間で俗語として「殺人インフルエンザ」と呼ばれている感染力・致死率の高い危険なインフルエンザです。
オーストラリアでは約21万人が感染し、546人の死者を出しているとのことで、この数は実に前年の8倍ということです。日本でもすでに小学校などでこの種が猛威を振るい始めているようで、流行を想定して対策をとっておく必要があるでしょう。
介護施設でインフルエンザが流行ったら?
高齢者こそ危険
インフルエンザは、突然の高熱、頭痛、関節痛など、普通の風邪に比べて全身症状が強く、気管支炎や肺炎などを合併し重症化することが多いので、体力のない高齢者は、特に注意が必要です。また、施設のような比較的密閉された空間では、一人が発症するとすぐに広がってしまう危険性があります。
実際の事例
今年の頭に、こんな事例がありました。
平成29年1月26日、千葉県館山市に所在する館山特別養護老人ホーム(所在地:館山市湊373)においてインフルエンザの集団感染が発生し、うち80歳代と90歳代の入所者2名が死亡
同ホームによると、死亡した2名はともにインフルエンザ(A型)が原因であることが判明したそうです。
また、入所者95名、職員54名のうち、死亡した2名を含め、インフルエンザ患者18名(入所者14名、職員4名)が確認されているとのことでした。
※引用:千葉県「インフルエンザの集団感染における死亡例について(平成29年1月26日)」
どう対策したらいいか?
インフルエンザワクチン接種での対策が第一
予防接種による効果
インフルエンザで恐ろしいのが肺炎や脳症等の重症化です。特に高齢者は重症化する可能性が高いと考えられています。インフルエンザワクチンの最も大きな効果は、この「重症化」を予防することです。
国内の研究によれば、65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があったとされています。[※平成11年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者:神谷齊(国立療養所三重病院))」]
65歳以上なら定期接種対象
予防接種には、法律に基づいて市区町村が主体となって実施する「定期接種」と、希望者が各自で受ける「任意接種」があります。
接種費用は、定期接種は公費(一部で自己負担あり)となっています。65歳以上の高齢者はインフルエンザにかかると重症化しやすく、インフルエンザワクチン接種による重症化の予防効果による便益が大きいと考えられるため、定期の予防接種の対象となっています。地域の医療機関、かかりつけ医等でインフルエンザワクチンの接種を受けることができます。
実施期間や費用は?
定期接種は市区町村が主体となっているため、自治体によって実施期間や自己負担費用が異なります。インフルエンザワクチン接種可能な医療機関や地域での取組については、お住まいの市町村(保健所・保健センター)、医師会、医療機関、かかりつけ医等に問い合わせるのがいいでしょう。
※インフルエンザを含む、感染症に関する予防接種等の相談はこちら[厚生労働省サイト内]をご参照ください。
平成29年度インフルエンザワクチン情報
流行前のワクチン接種が重要
ワクチンは、12月中旬までにワクチン接種を終えることが望ましいと考えられます。なお、今年度については、昨年度以前と比較してH3N2亜型株の製造開始が例年よりも遅れたことから、12月中旬以降にも、新たにインフルエンザワクチンが供給される可能性があります。仮に12月中旬までに接種をできなかった場合であっても、引き続き接種の機会があると考えられます。
(注)定期の予防接種として接種ができる期間は、自治体により異なりますので、定期の予防接種の対象期間については、お住いの市区町村にご確認ください。
基本的な感染対策の見直し
利用者にワクチン摂取をしただけで安心してはいけません。「施設でできることはもう十分行っている!」という声もあるかとは思いますが、今一度、インフルエンザを含めた感染症への予防策として、施設側が行うべき基本的な感染症対策を見直してみましょう。
まずは基本的な感染症予防対策
全ての感染症において、手洗いを徹底すること、栄養・睡眠を十分にとること、室内の加湿及び換気をこまめにすること、不織布マスク着用による咳エチケットを実践することは有効と言えます。これは職員・管理者・利用者・利用者の家族など、施設に関わる全ての人に当てはまることです。
職員の感染症対策
施設内整備の推進
まず、感染源となる菌やウイルスが繁殖しにくくする環境作りが重要です。ドアノブをアルコール消毒したり、施設内を清潔を保つように、こまめに清掃を行いましょう。
また、空気の乾燥はのどの粘膜の防御機能低下を招き、インフルエンザにかかるリスクを上げます。必要に応じて加湿器などを使って、適切な湿度(50~60%)を保つことも効果的です。衛生状態を保つために、施設整備を行うことが大切です。
日常業務における感染予防
利用者の排泄物(吐しゃ物、便、尿など)や血液・体液・分泌物(痰、膿など)、使用した器具・器材(刺入、挿入したもの)などは感染源となる可能性があります。
汚染された手で食品などに触れれば、更に多くの人に感染が拡大する危険性がありますので、利用者のケアの際に感染源となる物に触れる場合は、必ずビニール手袋を着用して取り扱いましょう。そして手袋を脱いだ後は、手洗い・手指消毒を必ず行いましょう。
利用者の健康管理
利用者の日常の健康チェックをきちんと行うことも重要です。吐き気、嘔吐、下痢、発熱、咳、鼻水などの留意すべき症状を見過ごさないように気をつけ、体調が悪そうな時は早めに対応するようにします。また、面会を実施する場合にも健康確認を行い、必要に応じて手指消毒・マスク着用を徹底させる等して外部からの感染を防止しましょう。
自身の健康管理
どれほど介護利用者のケアを丁寧に行い、感染症対策を行っていたとしても自身が感染源・媒介者となってしまっては元も子もありませんね。
またインフルエンザは出勤できない期間が長くなる傾向にあり、現場が人手不足となればケアの質の低下にも繋がる危険性があります。よって、利用者同様に職員もワクチン摂取を行い、日頃の体調管理を徹底しましょう。
管理者の感染症対策
施設内活動(職員の活動推進)
先程述べた職員の対策は、徹底しなくては意味がありません。職員がちゃんと予防対策・利用者の健康チェック・衛生管理を行っているかどうか管理者が目を行き届かせる必要があります。そのために感染症対策委員会を設置したり、マニュアルの策定をしたり、定期的に研修やミーティングを実施するなど常々対策を意識できるような活動を行うことが重要です。
施設外活動の実施
時前に対応マニュアルを作成し、特に関係機関との連携が重要であることから、日頃から保健センター・医療機関・福祉事務所等と連携体制を構築しておくことが重要です。感染症発生時は施設長から行政への報告、保健センターへの連絡などの報告・連絡系統を確認しておきましょう。施設長や医師、保健センターなどの指示に基づく現場での対応方法についても徹底しておきましょう。
職員の労務管理
基本的に施設内で過ごす利用者の場合、施設内で利用者から感染源が自然発生することは考えにくく、職員・面会者などが施設外で罹患して施設内に持ち込むケースが多いと考えられます。中でも職員は、利用者と日常的に長時間接するため、特に注意が必要です。日常から職員の健康管理を気にかけ、体調不良などを訴えた際には休ませてあげることができる職場環境づくりも必要です。
まとめ
インフルエンザ予防・被害を最小限にするために
今年もそろそろ大規模な流行を迎えそうなインフルエンザ。感染を防ぐためには、まずは流行前のワクチン接種を行いましょう。そして衛生的な環境を保つように対策を行いましょう。
また、当たり前のことですが、外出後の手洗いと栄養バランスの良い食生活、十分な休養など健康的な生活習慣を行うように、今一度健康管理を徹底することが第一です。また、万が一インフルエンザにかかった場合は、早めの医療機関受診が何より大切です。感染拡大を防ぎ被害を最小限にするためにも、速やかに対処し施設の安心安全を守りましょう。
▼参考資料・出典:
- 京都市「高齢者介護施設における感染症対策のすすめ方─集団感染をおこさないために─」
- 厚生労働省「平成29年度インフルエンザQ&A」
- 国立感染症研究所「2017/18シーズン インフルエンザワクチン株」