特別養護老人ホームは満員?最新の特養待機者数と空き状況について
2025年には国民の3人に1人が65歳以上という高齢化社会を迎えるなか、介護が必要となる高齢者のための施設の重要度が高まっています。
入居費用が高額となりやすい有料老人ホームを選べない人の受け皿として、特別養護老人ホーム(特養)があります。しかし、特養は費用が比較的安価なこともあり、入れるまで待たなければいけない人(待機者)がたくさん居るのが現状です。今回は特別養護老人ホームの待機者や空き状況の現状について、考えてみたいと思います。
目次
特別養護老人ホーム、待機者数の現状
2016年、特養の待機者数が16万人減少?
厚生労働省の発表によると、特別養護老人ホーム(特養)への入居を希望して入れなかった待機者は、2016年4月時点で約36万人だったとのことです。※
これは前回調査(2013年)の52万人より、約16万人の待機者が減ったことになります。 その分の入居希望者が入居できたということでしょうか?
※要介護3~5の入所申込者数29万人に、要介護1~2のうち特例対象者約7万人を足した合計
待機者数が減少した理由
特養の待機者数が減少した理由としては、2015年4月にされた介護保険制度の変更があります。以前の基準では、要介護度による制限はありませんでした。
待機者数の増大に対応するため、特養に入所できる対象者を「要介護度3以上」に限定した結果、要介護度1~2の希望者約11万人が申し込みを行わず、結果として待機者の総数減少につながったようです。その他複数申し込み者を統一するなどデータを精査したこともあるようですが、単純に待機状態が解消に向かってるとは言えない状況ですね。
【参考資料】
(PDF)特別養護老人ホームの入所申込者の状況(厚生労働省)
特別養護老人ホームの稼働状況
驚き!全国の特養で「満室」なのは約7割だけ?
2017年3月に厚生労働省より発表された「特別養護老人ホームの開設状況に関する調査研究」によると、2016年11月時点で「満室」と答えた施設は73.5%。26%の施設ではまだ「空きがある」と回答しています。
また、全施設の平均利用率(稼働率)はユニット型個室が96.6%、従来型個室・多床室が96.3%となっています。この数値は2013年調査時点とあまり変わっておらず、入所希望者とのマッチングがうまくいっていないのが現状です。
特養の稼働率(利用率)が100%にならない3つの理由
待機者が36万人居るにも関わらず、特別養護老人ホームの利用率が100%にならない理由はいくつか考えられます。集計時点で、利用者が入院していたり、新規入居までの準備期間で一時的に空きになるケースです。こうした要因は避けられませんし、一時的なものです。しかし、最近問題になっている要因は他にいくつかあるようです。
老健利用率が100%にならない3つの理由
- 介護職員の不足
- 要介護度の制限
- 地域の需給バランス
理由1:介護職員の不足
介護職員の不足とは、国の基準として、入居者に対する職員の割合が決められていることです。ベッドが空いていたとしても、職員数がその割合に達していなければ定員いっぱいまで募集することがでません。
理由2:要介護度の制限
要介護度の制限とは、改正された入居条件により、要介護度の低い人の応募そのものができなくなったことです。下の地域の問題とも関連しますが、たとえ「空き」がある地域に住んでいても、要介護度が低ければ、そもそも申請することができません。
理由3:地域の需給バランス
地域の需給バランスは、入居資格があり、入居を希望する人の数より施設が多い地域があるということです。
これは、過疎化により相対的に待機者が少ない場合や、施設過多によりバランスが崩れている場合があるようです。
前述の厚労省の資料の「地域区分別2016年11月時点における施設の利用状況」によると、政令都市および東京都特別区部では「空きがある」と回答した施設が31.1%だったのに対し、その他地域では24.4%にとどまっています。これによると東京などの都心のほうが「空きがある」状態となります。
特別養護老人ホーム待機者数と施設定員数比較(都道府県別)
都道府県 | 申込者(待機者) | 施設定員 | |||
---|---|---|---|---|---|
人数 | 割合(%) | 人数 | 割合(%) | ||
全国 | 292,567 | 100 | 530,280 | 100 | |
北海道 | 12,774 | 4.37 | 23,662 | 4.46 | ● |
青森 | 3,480 | 1.19 | 5,495 | 1.04 | |
岩手 | 4,406 | 1.51 | 6,934 | 1.31 | |
宮城 | 6,652 | 2.27 | 8,983 | 1.69 | |
秋田 | 6,748 | 2.31 | 6,733 | 1.27 | |
山形 | 4,632 | 1.58 | 7,623 | 1.44 | |
福島 | 8,494 | 2.90 | 10,198 | 1.92 | |
茨城 | 5,059 | 1.73 | 14,040 | 2.65 | ● |
栃木 | 3,399 | 1.16 | 7,209 | 1.36 | ● |
群馬 | 4,959 | 1.69 | 9,428 | 1.78 | ● |
埼玉 | 7,951 | 2.72 | 29,788 | 5.62 | ● |
千葉 | 10,165 | 3.47 | 22,582 | 4.26 | ● |
東京 | 24,815 | 8.48 | 43,638 | 8.23 | |
神奈川 | 16,691 | 5.71 | 33,111 | 6.24 | ● |
新潟 | 11,070 | 3.78 | 14,647 | 2.76 | |
富山 | 3,234 | 1.11 | 5,377 | 1.01 | |
石川 | 2,244 | 0.77 | 6,098 | 1.15 | ● |
福井 | 2,292 | 0.78 | 4,393 | 0.83 | ● |
山梨 | 4,860 | 1.66 | 3,517 | 0.66 | |
長野 | 2,343 | 0.80 | 10,975 | 2.07 | ● |
岐阜 | 6,737 | 2.30 | 9,739 | 1.84 | |
静岡 | 6,749 | 2.31 | 16,898 | 3.19 | ● |
愛知 | 10,006 | 3.42 | 22,305 | 4.21 | ● |
三重 | 5,359 | 1.83 | 8,727 | 1.65 | |
滋賀 | 4,905 | 1.68 | 5,366 | 1.01 | |
京都 | 8,755 | 2.99 | 11,084 | 2.09 | |
大阪 | 12,048 | 4.12 | 30,877 | 5.82 | ● |
兵庫 | 14,983 | 5.12 | 22,710 | 4.28 | |
奈良 | 3,187 | 1.09 | 6,705 | 1.26 | ● |
和歌山 | 2,603 | 0.89 | 5,493 | 1.04 | ● |
鳥取 | 2,084 | 0.71 | 3,027 | 0.57 | |
島根 | 3,354 | 1.15 | 4,743 | 0.89 | |
岡山 | 6,918 | 2.36 | 9,693 | 1.83 | |
広島 | 9,968 | 3.41 | 10,989 | 2.07 | |
山口 | 5,001 | 1.71 | 6,548 | 1.23 | |
徳島 | 1,161 | 0.40 | 3,517 | 0.66 | ● |
香川 | 3,392 | 1.16 | 4,921 | 0.93 | |
愛媛 | 6,385 | 2.18 | 6,130 | 1.16 | |
高知 | 2,584 | 0.88 | 4,126 | 0.78 | |
福岡 | 6,468 | 2.21 | 20,576 | 3.88 | ● |
佐賀 | 2,083 | 0.71 | 3,515 | 0.66 | |
長崎 | 2,846 | 0.97 | 6,320 | 1.19 | ● |
熊本 | 4,666 | 1.59 | 7,387 | 1.39 | |
大分 | 2,795 | 0.96 | 4,787 | 0.90 | |
宮崎 | 3,575 | 1.22 | 5,524 | 1.04 | |
鹿児島 | 5,100 | 1.74 | 9,543 | 1.80 | ● |
沖縄 | 2,587 | 0.88 | 4,599 | 0.87 |
(厚生労働省)介護サービス施設・事業所調査(2016年10月厚生労働省)と特別養護老人ホームの入所申込者の状況(2016年4月)をもとに当社作成
表内の割合は、総数を100%とした場合の、各都道府県の数を置き換えた割合です。
右の数値は施設での定員数であり、施設の「空き」を示すものではないため、単純に比較はできませんが、傾向としては●印の地区は需要より供給が多くなっている可能性がある地域です。
例えば北海道の場合、申込者数の全国合計292,567人に対し、北海道での12,774人は4.37%となります。それに対し施設定員は、全国合計530,280人に対し、北海道での23,662人は4.46%となり、4.37%≒4.46%なので、北海道地区の需給バランスは全国平均で見た場合は、概ね等しい傾向にあると思われます。
【参考資料】
(PDF)特別養護老人ホームの開設状況に関する調査研究 報告書(厚生労働省)
まとめ:入所者・入居者確保のための対策は必要!
今回は、特養の待機者数と施設の空きという複雑な現状についての問題を取り上げました。
さらに介護施設の空き問題としては、国からのサポートもあり近年増加しているサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)でも、似たように問題があります。サ高住も場所によって、入居者が集まらない問題があるようなのです。
待機者の改善に関しては、国単位、地区単位での取り組みが必要ですが、施設側やオーナー側で取り組める対策もあります。まず、施設を新設する場合には建設する地域を考えなければ、入居者確保が難しい地域もあることを踏まえておきましょう。
また、介護職員の不足に対しては、今話題の「見守りシステム」の導入なども検討しましょう。夜勤など少人数スタッフでの作業が軽減できれば、離職率も抑えられるでしょう。そうすれば職員不足による定員割れを防ぐことができます。
▼見守りシステムについてはこちらの記事もご参照ください。