高齢者

認知症による徘徊対策、介護施設にできる事ってなんだろう?

介護施設の運営において、今後より重要になっていくのが「認知症による徘徊対策」です。団塊の世代が全員「75歳以上」になる2025年には、認知症患者が急増すると見られています。介護施設としてはそのような事態へ備え、認知症による徘徊の受け入れ体制を整えることが大事です。
そこで今回は、「そもそも徘徊対策を怠った施設はどのような不利益を被るのか」や「介護施設としてどう対処したらいいのか」などの様々な情報を提供すると共に、徘徊と対策について考えてみましょう。

認知症による徘徊への対策…介護施設で怠ると、とんでもないことに?

2020年には認知症の高齢者数が、推定600万人以上になる!?

2012年、認知症の患者数は推定462万人でした。しかし2015年に517万人となり、2020年では602万人まで増える推計※1が出ております。この数値から考えても、今後ますます介護施設に認知症の入居者が増えるであろうことが分かります。
そのため、これからの介護施設運営においては認知症や徘徊にどう対応していくかが重要です。

【居場所別内訳】認知症の高齢者は、どこで過ごすことが多いのか?

そもそも、認知症の高齢者は自宅か施設か…どこで過ごしていることが多いのでしょうか?下記の表は、日常生活自立度II以上の高齢者の、居場所の内約をまとめた資料になります。

認知症高齢者の居場所別内訳

この表を見たところ、一番多いのは「居宅」で140万人。そして介護施設に当たる「特定施設、グループホーム、介護老人福祉施設、介護老人保健施設等」は合計して101万人、そして「医療機関」に38万人がいます。
割合で見ると、認知症高齢者の36%が介護施設に入居している現状が見えてきます。

認知症高齢者の日常生活自立度
ランク 判定基準
何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している。
日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる。
日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さがときどき見られ、介護を必要とする。
日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。
著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする。
参考資料:認知症高齢者の日常生活自立度※2

認知症による徘徊が原因で、年1.5万人以上もの行方不明者が?

次に、認知症による徘徊でそのまま行方不明になってしまった件数についてお話ししましょう。「平成28年における行方不明者の状況」の資料では、疾病関連で行方不明になったのが「21,852人」、そのうち認知症によるものは「15,432人」に及ぶ結果がでました。※3
3年前の「10,322人」に比べて約1.5倍増えており、認知症患者が増える比率に応じて行方不明になる人数も増えていることが分かります。

行方不明の認知症者の内、388人が「死亡」状態で発見

平成25年の資料になりますが、この年は認知症による行方不明者が「10,322人」出ており、内388人が死亡で発見されました。※4
全体の約4%程ではありますが、認知症による徘徊が原因で「人が死んでいる事実」が浮き彫りになりました。

徘徊による主な死因は?

認知症者の徘徊による主な死因としては「水死と凍死」が多く、夏は水死が増え冬は凍死が増えるそうです。※4

  1. 水死 39.4%
  2. 凍死 34.4%
  3. 事故 14.8%
  4. 病気 8.2%
  5. その他 3.3%

徘徊による利用者死亡で、介護施設に賠償責任が生じた事例も!

ここで気になるのが、利用者が徘徊によって死亡してしまった時に責任問題がどうなるのかという点。判決で施設側に過失があったと認められれば、賠償責任が発生します。
過去には徘徊した高齢女性が死亡してしまい、介護施設に対して「約2870万円の支払い」を命じられた事件がありました。
このように、一度問題が起こると高い請求を払わなくてはならない上、施設の信頼性も失ってしまいます。

職員が目を離した隙に窓から脱出…施設への賠償請求は「合計約2,849,000円」の事例も!

ここで、ひとつの徘徊事件を具体的にご紹介します。※5

被告は、原告Aに対し、143万円及びこれに対する平成9年6月21日から支払い済みまで年5分の割合による金員を、原告B,原告C,原告Dに対し、各47万3000円及びこれらに対する平成9年6月21日から支払い済みまで年5分の割合による金員を、それぞれ支払え。

このような判決が出た事件の内容は、被告は老人デイサービスセンターを運営していました。亡くなった高齢者は重度の認知症を発症しており、状況検分により脱出した箇所は西側にあった窓からと判断されました。
裁判の争点と判断を、以下の4点にまとめました。

  • 争点:被告施設から脱出したことについて、被告に過失があるか。
    判断:事業の運営につき、被告職員の過失は民法715条により被告が責めを負う。
  • 争点:被告施設の建物及び設備に欠点があるか。
    判断:徘徊防止のため装置を施すべきであるにもかかわらず、防止する手立てをしていなかった。
  • 争点:亡くなった高齢者の死亡と被告の注意義務違反又は、被告施設の建物及び設備の欠点との間に相当因果関係があるか。
    判断:被告職員の過失と亡くなった高齢者の死との間の相当因果関係は認められないが、家族が被った精神的苦痛が要因として判断される。
  • 争点:被害額はいくらか。
    判断:原告4人に対して計2,849,000円

徘徊対策の重要性…でも、どこを気をつければいいの?

徘徊による事故や死亡で賠償責任を問われることもあり、徘徊防止の必要性を痛感します。
徘徊を防止するために「認知症患者を束縛してしまえばいい!」と思う方もいるかもしれません。しかし、平成12年の介護保険制度の執行時、介護施設において高齢者をベッドや車いすに縛りつけるなど、身体の自由を奪う身体拘束は「生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き」おこなってはならないとされ、原則禁止になりました。
では、認知症利用者の行動制限をせずに施設外への徘徊を防ぐには、どう対策したらいいのでしょうか?

徘徊の多い時間帯はいつ?

では、ここで徘徊が起きやすい時間について見ていきましょう。徘徊が生じた時間帯としては、早朝・朝が一番多く「43.8%」です。次いで午後・夕方では「37.5%」です。夜・深夜になると「18.8%」※6という統計が出ています。日中の徘徊が多い要因は、外に出ていきやすい環境と徘徊に起因する行動(家に帰らないといけない、買い物をしなくてはならない、畑を見なくてはならない…などの行動理由)が日中にあるからと予想します。

徘徊が起きやすい場所はどこ?

つづいて、徘徊が起きやすい場所について見ていきましょう。介護施設の出入り可能な場所、高齢者が実際出ていってしまうところはどこなのでしょうか?
人が出入りできる場所としては「玄関、通用口、非常口、窓」などがあります。夜間はしっかりと施錠をされていますが、日中は人の出入りのために施錠ができず、スタッフの人数が少ない施設では目を離した隙に出ていってしまうことがあるそうです。また1階の窓など、簡単に開け閉めして外に出られる所も注意が必要な場所になります。

IoTを利用した徘徊対策が有効!?とある介護施設で行ったシステム導入例

顔認証システムによる、玄関出入自動チェック

ここまでの調べで、日中の徘徊が多いことが分かりました。では、日中の徘徊はどうしたら防げるでしょうか。そこで提案したいのが、IoT技術を使った顔認証システムです。
事前に登録した入居者の顔を玄関口で検知、すると介護スタッフへ通知がいき素早く対処ができるシステムになります。これにより、玄関からの脱出を防げます。

セキュリティ会社と連携、通用口の強制解錠をチェック

通用口には、セキュリティ会社との連携で入退室管理システムを設置するといいでしょう。
スタッフの持っているIDカード、またはパスがないと解錠できない仕組みになっており、業者の入館は介護スタッフのハンディナースまたは親機から解錠をおこない、出入りしてもらうようにします。
夜間無理やり出入口を開けようとする人物がいた場合、スタッフにお知らせするだけでなく、セキュリティ会社へも連絡が入ります。

窓からの脱出を防ぐ、センサーによる抜け出しチェック

窓にマグネットセンサーを取り付けし、開けられたタイミングでスタッフへ通知がいく仕組みのシステムも有効です。どこの箇所のセンサーが反応したのかスタッフが持つ端末に通知で表示されるので、すぐに現場に駆けつけることができます。

このようにIoTを活用した複数のシステムを組合せてネットワークで管理することで、より強固な徘徊対策をすることができます。このシステムの詳細は、下記のリンクからご確認ください。

▼IoTを活用した徘徊対策で、安心な施設を実現!
介護施設の徘徊対策を最新のIoT技術+ナースコールシステムで実現
介護施設の徘徊対策にIoT技術を利用した最新のシステムをご紹介。介護スタッフの代わりにIoTが入居者の徘徊をチェック!顔認証システム、センサー、入退室管理システムをナースコールと連携し、スタッフの負担をかけずに徘徊対策をおこなえます。

まとめ

介護施設の徘徊対策は「IoTを利用したネットワーク管理」で!

徘徊対策は、今やどんな介護施設でも考えなくてはいけない重要な事案となりつつあります。
徘徊対策のIoT導入は、高齢者の命を守るためだけでなく、そこで働く介護スタッフの心的負担を軽減させる効果もあります。常に出入口に気を配る必要がなくなり、問題が起こった時だけ対処することができるからです。
今後ますます増えていくであろう、認知症による徘徊。施設の方針として、しっかり対策することをオススメします。

出展

※1 厚生労働科学研究成果データベースより日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究
※2 厚生労働省「認知症高齢者の日常生活自立度」II以上の高齢者数について
※3 警視庁 平成28年における行方不明者の状況
※4 国立研究開発法人 科学技術振興機構 認知症の徘徊による行方不明死亡者の死亡パターンに関する研究
※5 裁判例情報 地方地方裁判所浜松支部
※6 愛知県委託事業 徘徊高齢者の効果的な捜索に関する研究等事業報告書