津波対策

介護施設のBCP・防災マニュアル【津波編】

発生から10年弱経った今もなお、鮮明に記憶に残り続ける未曽有の大災害…それは「東日本大震災」です。東日本大震災は、地震への意識が一気に変わる出来事でもありました。それは、津波による甚大な被害です。東日本大震災での死者は、地震による圧死より津波による溺死のほうが圧倒的に多かったのです。これらの事実から、各所で津波に関する意識の改善が行われています。介護施設でも、海から近い・海抜が低いといった津波が到達する危険性が高い施設については、どう備えて対処するのか、避難場所はどこにするのか…具体的な対策を取り決めていると思います。
ここでは「津波から介護施設を守る」をキャッチコピーに、少しでもお役に立てる情報を発信したいと思います。

大事なのは、介護施設の状況をしっかり把握すること

東日本大震災では津波が沿岸部から5~10km程の場所まで達したり、高さが40mを越えた地域もあるという、想像を遥かに越えた規模の津波が発生しました。それまでのハザードマップの想定を越えた津波だったため、津波による被害拡大の要因のひとつになっています。海側にあった介護施設では、施設内に待機していたり、避難途中にあった方々に多くの被害が出ました。
これらのことから、施設がある場所について正確に最新の情報を知る必要があります。まずは、自分たちの介護施設がどのような立地にあるのか確認してみましょう。

ハザードマップを使って、自分たちの介護施設の状況を知る

全国ハザードマップ情報
国土交通省ハザードマップポータルサイト
国土交通省が運営する、「ハザードマップポータルサイト」です。身の回りでどんな災害が起こりうるのか、調べることができます。

まず大事なのは、介護施設が「ハザードマップ内で危険地域」になっていないか確認することです。これにより、災害時の対応が大きく変わっていきます。また、津波観測の精度は日進月歩で上がってはいますが、東日本大震災の教訓として「ハザードマップで津波到達地域に入っていなくても津波の想定をする」ことも大切です。

気をつけよう!避難場所までの経路の選択

さて、仮に津波が到達する場所に介護施設があったとします。そこで考える必要があるのが、「避難経路」です。津波から逃れるために必要なのは、「高台への避難」や「避難指定ビルへの避難」ですよね。そのための最短経路を考えます。しかしここで注意しなければならないのが、「倒壊した建物や障害物によって通ることができずに迂回しなければならなくなるケース」です。最短経路を行ったとしても、これでは逆に避難が遅くなってしまいます。 そこで避難経路を考える時は、下記の回避点を考慮して最短ルートを構築しましょう。また、いざという時に備えて経路は1つだけではなく2~3コース想定することも大切です。

介護施設の避難経路選択で避けるべき回避点リスト

  • 地形の高低差
  • 道路の狭い道
  • 古い建物
  • ブロック塀(特に透かしブロックのある塀)
  • ガラス張りビル
  • 大きな看板
  • 河川
  • 土砂災害危険箇所
  • がけ・落石のおそれがあるところ

施設に合わせた「避難マップ」を作ってみましょう

続いては、今までの内容を元に「避難マップ」を作成しましょう。ハザードマップから津波の到達時間を確認し、それぞれの順路案を作成します。実際に道順を確認し、危ない建物などがないかチェックして、一番近い高台やビルを数個ピックアップした地図を作成します。そして一番大事なのは、「作成した避難マップを元に、避難訓練を日頃から行うこと」です。ここまですることで、避難経路の環境の変化や危ない地点の予測をより細かく判断できるようになります。

避難経路マップイメージ

津波の特長【ちょっと雑学】

沖合いの津波は速い!だから波が高くなる!

津波は海が深いほど速く伝わる性質があり、沖合いではジェット機に匹敵する速さで伝わります。逆に、陸地に近づき水深が浅くなるほど速度が遅くなります。この原理により、後発の波が前発の津波にだんだんと追いつくことで、沿岸部に到達する頃には波がかなり高くなる…という現象が起きます。

津波は一度だけじゃない!繰り返し来襲する!

津波の発生は、一度だけではありません。繰り返し来襲し、第1波後にさらに大きな津波が襲ってくる可能性もあります。津波警報や注意報が解除されるまでは、決して警戒をゆるめてはいけないのです。
※1 宮崎市 福祉部 介護保険課防災計画策定マニュアル
津波被害の写真
津波被害の写真 ※2 災害写真データベースより

介護施設を守るBCPの推進【津波前の対応】

ここからは、介護施設の安全を守るための事前対応~BCPの推進についてお話します。平常時から様々な対策をおこなっておくことで、災害時の状況が大きく変わっていきます。ぜひ下記でご紹介しているマニュアルを一読してみてください。

いざという時のために!必需品の備蓄

津波発生の際は、まずは逃げることが一番大事になります。”何も持たずに避難する”ことが大切です。また、すぐに持ち出せることが前提なら”バッグが重たくならない程度の非常食、救急用品を入れたもの”を用意するといいでしょう。他の備蓄に関しては、できるだけ津波の被害に合わないようにしておく必要があります。建物の最上階に置くなどして、物資を保管しておきましょう。

備蓄用食糧品

備蓄用食糧品
備蓄用食糧品

最初の数日は火が使えない状態の可能性があるので、火を使わずとも食べられるものを用意しましょう。流動食しか食べられない高齢者のために、水煮などの柔らかい缶詰やレトルトを用意することも大事です。

救急用医薬品

救急用医薬品
救急用医薬品

利用者常備薬

利用者常備薬

移送

移送

情報通信機器

情報通信機器

照明

照明

備品

備品

災害用設備

災害用設備

救助用機材

救助用機材

※3 高知県社会福祉施設防災対策指針より

災害対策に必要な心持ち~平常時の簡易チェックリスト

  • ☑ 地盤、地形などの立地条件の確認と起こりうる災害予測
  • ☑ 電話が通じない場合の通信手段(衛星電話など)の確保
  • ☑ 災害時の飲料水等の確保、また確保する方法があるか
  • ☑ 水洗便所の使用が出来なくなった場合の対応が検討されているか
  • ☑ 灯油等の燃料の確保、また確保する方法はあるか
  • ☑ 自家発電装置等の緊急時の電力の確保
  • ☑ 夜間に被災し、かつ、停電となった場合の照明は確保されているか
  • ☑ ガスの供給元栓の場所の把握
  • ☑ 薬品、可燃性危険物は火気がなく落下の危険のない場所に保管されているか
  • ☑ プロパンガスボンベは、転倒しないように固定する
  • ☑ 地下や屋外に設置している水(油)タンク等の点検
  • ☑ 入居者等と職員を含め3日分以上の食料の備蓄
  • ☑ 火や水が無くても食べられるものや、消化しやすい食糧の準備
  • ☑ 備蓄物資は、2階以上で保管されているか
  • ☑ 職員間で連絡が取れるよう、緊急連絡網を作成
  • ☑ 電話等通常の連絡手段が使えない場合の緊急時の連絡方法を検討
  • ☑ 救護が必要な入居者等をまとめた一覧を作成
  • ☑ 作成した一覧は、同時に被災しないと考えられる数箇所に保管
  • ☑ 避難経路を複数設定
  • ☑ 送迎中に被災した場合の避難場所等や避難経路を検討
  • ☑ 避難場所や避難経路をまとめたマップを作成
  • ☑ 家族等と避難場所等及び引き渡し場所について情報共有
  • ☑ 入居者等が自分自身で身を守る手段を学ぶ訓練を実施
  • ☑ 地域の行事へ積極的に参加し、防災に関する情報交換等をする
※4 防災ガイドBOOKより

介護施設を守るBCPの推進【津波後の対応】

津波警報後の行動手順

行動リスト

津波が来たら?津波発生時の対応~簡易チェックリスト

  • ☑ ラジオ、テレビ、市町災害対策本部等の施設内外から情報を入手
  • ☑ 入居者等に現在の災害状況を定期的に伝える
  • ☑ 家族等へは施設から一括して連絡
  • ☑ 総括責任者を定める
  • ☑ 職員の招集。ただし、参集途中で津波が到達するおそれがある等の場合は、近くの避難場所に避難することを優先
  • ☑ 役割分担を確認
  • ☑ 火元の点検、電熱器具のカット、ガスの閉栓などの火気の使用制限
  • ☑ 危険物の保管・設置について緊急チェックを行う
  • ☑ 施設の状態、立地条件や施設の周辺の環境、被害状況、外部からの情報等をもとに、総括責任者において入居者等の避難の要否を判断
  • ☑ 避難場所は、可能な限り近く、高い場所を避難場所とする
  • ☑ 職員数、入居者数等の状況により、避難が困難な場合は、近隣住民、町内会、自主防災組織、学校、企業等に応援要請を行なう。
  • ☑ 避難経路、避難方法、点呼等の安全確認方法、持ち出し品、責任者を確認する
  • ☑ 担架、車椅子、スリッパ、ヘルメット、ロープ、プラカード、ゼッケン、非常持ち出し品、救護用入居者等一覧、緊急時連絡・引き渡しカード等必要品の準備をする
  • ☑ 避難誘導を開始する前に点呼をとる
  • ☑ 入居者等への避難誘導の連絡と安全指導班の避難手順の指示を行なう
  • ☑ 避難誘導後に点呼をとる
  • ☑ 建物の入口に避難先、連絡先、避難する人数を記した貼紙を貼る
  • ☑ 避難後、家族等に現状を報告する
  • ☑ 警報又は注意報が解除され安全が確認されたのち、あらかじめ定められた場所と方法で入居者等の引き渡しを行う
  • ☑ 入居者等を最上階に移動させる
  • ☑ 備品、食料品、衣料、寝具、医薬品、衛生材料等の生活用品等を高い場所に移動させる
※4 防災ガイドBOOKより

まとめ

介護施設の運営を、迅速に再開するために

施設の立地から、津波到達の危険性を事前に把握することで、地震が起きた時の初動が変化します。津波についての知識を持ち、最適な避難ルートを頭に入れておくことで、多くの命が救われることに繋がるかもしれません。多くの命が助かれば、それだけ介護施設の運営を再開するのも早くなります。地域のために、施設運営のために…常に災害時の心構えをしておくことが大事ですね。

最後に、各都道府県別の非常災害対策計画・マニュアルを掲載しているサイトを紹介します。介護施設用に書かれたものがある場合は”介護施設用資料”、全ての団体、施設に向けて作成されたものには”全施設用資料”とリンクに記載しています。ご自身の地域の資料に、一度目を通しておくといいかもしれません。

出典

※1 宮崎市 福祉部 介護保険課防災計画策定マニュアル
※2 災害写真データベース
※3 高知県社会福祉施設防災対策指針
※4 内閣府:防災ガイドBOOK
他の災害についてはこちらから
介護施設のBCP・防災マニュアル【火災編】
介護施設のBCP考えていますか?火災はいつでも起こりうる脅威です。特に夜勤中は火災の被害が大きくなる傾向にあり、介護職員として如何に対応していくかが重要になります。そんな危険な火災とどう向き合っていくか考えてみましょう。
介護施設のBCP・防災マニュアル【地震編】
介護施設のBCP考えていますか?日本はどこの地域にいてもいつ地震に襲われるか分かりません。そんな地震対策で一番大事なのは日頃の備え。そして実際に地震が起こった時の初動にかかっています。ここでは地震対策の強化のため防災マニュアルを紹介します。
介護施設のBCP・防災マニュアル【風水害編】
介護施設のBCP考えていますか?風水害は長雨や台風によって引き起こされる洪水、土砂災害のことをいいます。特に台風による風水害は大きな被害をもたらすことも。そんな風水害にどのように対処すべきか考えていきましょう。

県別・非常災害対策計画、マニュアル

北海道地方 北海道 介護施設用資料
東北地方 青森県 全施設用資料
岩手県 介護施設用資料
宮城県 介護施設用資料
秋田県 全施設用資料
山形県 全施設用資料
福島県 全施設用資料
関東地方 茨城県 介護施設用資料
栃木県 全施設用資料
群馬県 介護施設用資料
埼玉県 介護施設用資料
千葉県 介護施設用資料
東京都 全施設用資料
神奈川県 全施設用資料
中部地方 新潟県 介護施設用資料
富山県 介護施設用資料
石川県 介護施設用資料
福井県 全施設用資料
山梨県 介護施設用資料
長野県 全施設用資料
岐阜県 全施設用資料
静岡県 介護施設用資料
愛知県 全施設用資料
近畿地方 三重県 全施設用資料
滋賀県 全施設用資料
京都府 全施設用資料
大阪府 介護施設用資料
兵庫県 介護施設用資料
奈良県 全施設用資料
和歌山県 全施設用資料
中国地方 鳥取県 全施設用資料
島根県 全施設用資料
岡山県 全施設用資料
広島県 全施設用資料
山口県 介護施設用資料
四国地方 徳島県 全施設用資料
香川県 介護施設用資料
愛媛県 介護施設用資料
高知県 介護施設用資料
九州地方 福岡県 介護施設用資料
佐賀県 介護施設用資料
長崎県 全施設用資料
熊本県 介護施設用資料
大分県 全施設用資料
宮崎県 介護施設用資料
鹿児島県 全施設用資料
沖縄地方 沖縄県 全施設用資料