人手不足と閉鎖

人手不足で介護施設が閉鎖?~人手不足の原因と対策、介護事業助成金活用まで

現在介護業界(介護施設)は、深刻な人手不足を抱えています。
人手不足の問題は、スタッフの負担増大・施設運営の継続にも大きな影響を及ぼします。最悪の場合、施設閉鎖にまで追い込まれることも。そこで今回は、介護施設が人手不足に陥る原因と対策から介護事業(介護施設)をサポートする助成金の活用についてまで、まとめていきたいと思います。

人手不足によって介護施設が閉鎖する?!

なんと、年間108件の介護施設が倒産している…

東京商工リサーチによると、2016年(1-12月)の「老人福祉・介護事業」倒産や閉鎖は、2000年の調査開始以来、これまで最多だった2015年(76件)の「1.4倍増=108件」にまで急増したとのこと。
なぜ倒産や閉鎖が急増してしまったのでしょうか?具体的な倒産・閉鎖の増加要因として、下記の様な事が考えられるようです。

成長市場と注目されてきた老人福祉・介護事業だが、2015年4月の介護報酬改定や介護職員の人手不足が慢性化する中で業界内の淘汰の動きが強まっている。
倒産の増加要因として、
  1. 同業他社との競争激化から、経営力が劣る業者の淘汰が進んだ
  2. 介護報酬の実質マイナス改定による、収益への影響
  3. 介護職員不足の中で、離職を防ぐための人件費が上昇
などが挙げられる。特に、介護業界の人手不足は「国内景気が悪い時の採用は順調だが、好況になると人材が他業種へ流出する」など、景気と逆向きの傾向がある。
とりわけ小規模事業者は業績停滞に加え、資金的な制約も抱えており深刻さが増している。

∴引用元:東京商工リサーチ「2016年(1-12月)「老人福祉・介護事業」の倒産状況」

少子高齢化の中で求人市場が好況なことにより人手が集まらず、それを改善するために人件費が上昇…さらに介護報酬の減額などの要因が重なり、経営難に陥っている施設が増加している…と考えられます。
このように、施設閉鎖の大きな要因となりうる「人手不足」ですが、人手不足を補い必要な人材を確保するためにはどうしたらいいのでしょうか?いい対策方法はあるのでしょうか?

介護施設の人手不足解消のための対策案

人手不足を解消するためには、介護職員にまずは入社してもらうこと。そして入社した後には、定着してもらう必要があります。そのための対策の一つとして、「職員が働きやすいと感じる環境を整える」ことは有効だと考えます。介護現場に人材を確保するために、介護職員が働きやすい環境を整備するにはどうしたらいいでしょうか?具体的な案を、いくつか見ていきましょう。

対策案1:職員をサポートする機器を利用する

人材定着のために施設側でできる対策の一つとして、職員をサポートする機器の利用が挙げられます。最近注目されている機器として、職員に変わって入居者の状況・状態を見守る「見守りシステム」があります。この見守りシステムは職員の負担を減らすことが目的の一つですので、人材定着にも最適です。

センサーを活用した入居者見守りシステムで、職員の負担を軽減

見守りシステムは、利用者の呼吸や心拍数と言った生体情報や、温度や湿度といった居室情報をセンサーで24時間365日常時把握し、異常数値になった場合に自動的に通知するシステムです。
これにより緊急事態が何か起きた場合に、利用者が発報をできない・しない状態にあってもお知らせすることができます。また生体情報の変化をデータとして保存・閲覧できるので、生活習慣の変化などを把握して「夜眠れない」などの状況を早めに発見し、対処することができます。
見守りシステムによって介護職員にかかる負担を軽減可能で、離職の解消に繋がります。

▼見守りシステムの詳細について、下記リンク先もぜひご参照ください

介護を円滑化!これからの介護施設に必要な見守りシステムって?
介護度の重い方や見守りの必要な高齢者のベッドからの転落・徘徊による事故への対策として、介護施設の負担を軽減する「見守りシステム」についてご説明致します。

対策案2:助成金制度を利用する

対策案の二つ目は人材定着のために活用できる、介護事業所様向けの助成金です。助成金は、一定の条件を満たした事業主が申請をすれば国や公共団体から支給を受けることができる、返済の必要がない給付金です。介護業界の人手不足を解消するために、国が出している対策として助成金制度があるのです。

介護事業助成金「職場定着支援助成金」

例として、介護事業助成金「職場定着支援助成金」があります。この介護事業助成金は、魅力ある職場づくりに取り組む事業主に向けられた制度となっています。利用すれば、人材確保のための職場環境整備に繋がります。概要として、下記のように提示されています。

事業主が、雇用管理制度(評価・処遇制度、研修制度、健康づくり制度、メンター制度、短時間正社員制度(保育事業主)のみ)の導入等による雇用管理改善を行い、人材の定着・確保を図る場合に助成するものです。
また、介護事業主が介護福祉機器等の導入等を行った場合や、介護事業主が労働者の職場への定着の促進に資する賃金制度の整備を通じて、介護労働者の離職率の低下に取り組んだ場合も助成対象となります。助成種類としては、以下の3つのコースがあります。
1.雇用管理制度助成コース
2.介護福祉機器助成コース
3.介護労働者雇用管理制度助成コース

∴厚生労働省 「職場定着支援助成金」を元に介護主体の物のみ引用・抜粋

では、次の項目で介護事業助成金「職場定着支援助成金」の三つの各コース詳細を見ていきましょう。


【1】雇用管理制度助成コース
■ 助成金の概要

事業主が、新たに雇用管理制度(評価・処遇制度、研修制度、健康づくり制度、メンター制度)の導入・実施をおこなった場合に制度導入助成(1制度につき助成金10万円)を、雇用管理制度の適切な運用を経て従業員の離職率の低下が図られた場合に目標達成助成(助成金57万円(生産性要件を満たした場合は72万円))を支給します。

■ 助成金支給の流れ
  1. 雇用管理制度整備計画の作成・提出
  2. 雇用管理制度計画期間
  3. ・雇用管理制度の導入
    ・雇用管理制度の実施
  4. 制度導入助成の支給申請(計画期間終了後2ヶ月以内)
  5. 目標達成助成の支給申請(算定期間終了後2ヶ月以内)
  6. 助成金の支給(制度導入助成・目標達成助成)
  7. ・制度導入助成は各制度助成金10万円
    ・目標達成助成は助成金57万円
    ※生産性要件を満たした場合72万円

【2】介護福祉機器助成コース
■ 助成金の概要

介護事業主が、介護労働者の身体的負担を軽減するために、新たに介護福祉機器を導入し、適切な運用を行うことにより、労働環境の改善がみられた場合に、機器導入助成(介護福祉機器の導入費用の25%(助成金上限150万円))を、介護福祉機器の適切な運用を経て従業員の離職率の低下が図られた場合に目標達成助成(介護福祉機器の導入費用の20%(生産性要件を満たした場合は35%)(助成金上限150万円))を支給します。

助成対象となる介護福祉機器は…
移動・昇降用リフト、自動車用車いすリフト、エアーマット、特殊浴槽、ストレッチャー

■ 助成金の支給の流れ
  1. 導入・運用計画の作成・提出
  2. 導入・運用計画期間
  3. ・介護福祉機器の導入・運用
    ・介護福祉機器の導入効果の把握
  4. 機器導入助成の支給申請(計画期間終了後2ヶ月以内)
  5. 目標達成助成の支給申請(算定期間終了後2ヶ月以内)
  6. 助成金の支給(機器導入助成・目標達成助成)
  7. ・機器導入助成は導入費用の25%(助成金上限150万円)
    ・目標達成助成は、導入費用の20%(助成金上限150万円)
    ※生産性要件を満たした場合35%

【3】介護労働者雇用管理制度助成コース
■ 助成金支給の流れ

介護事業主が、介護労働者の職場への定着の促進に資する賃金制度の整備(職務、職責、職能、資格、勤続年数等に応じて階層的に定めるものの整備)を行った場合に制度整備助成(助成金50万円)を支給します。
賃金制度の適切な運用を経て、介護労働者の離職率に関する目標を達成した場合、計画期間終了1年経過後に目標達成助成(第1回)(助成金57万円(生産性要件を満たした場合は72万円) )を、計画期間終了3年経過後に目標達成助成(第2回)(助成金85.5万円(生産性要件を満たした場合は108万円) )を支給します。

■ 助成金支給の流れ
  1. 介護賃金制度整備計画の作成・提出
  2. 介護賃金制度整備計画期間
  3. ・賃金精度の整備
    ・賃金精度の実施
  4. 制度整備助成[第一回]の支給申請(第一回算定期間終了後2ヶ月以内)
  5. 目標達成助成[第二回]の支給申請(第二回算定期間終了後2ヶ月以内)
  6. 助成金の支給(制度導入助成・目標達成助成第一回/第二回)
  7. ・制度整備助成は50万円
    ・目標達成助成[第一回]は助成金57万円(※生産性要件を満たした場合72万円)
    ・目標達成助成[第二回]は助成金85.5万円(※生産性要件を満たした場合108万円)

「職場定着支援助成金」の全ての詳細

以上のように各コースの概要を説明してきましたが、詳細に関しては下記ページをご確認下さい。

厚生労働省「職場定着支援助成金のご案内」

まとめ

介護事業の人手不足による閉鎖を防ぐべく、人材確保・定着のための対策を講じましょう!

人手不足は介護業界にとって深刻な問題ですが、それは介護業界だけはでなく国全体からしても同じです。少子高齢化により働き手が減る中で、今後ますます高まる介護需要に応えるには国も施設も対策を練っていかなくてはなりません。今回紹介したような助成金を利用して、働く環境の整備や介護労働者の定着・離職率低下を目指していく必要があるでしょう。

また、介護報酬を3年ごとに見直す介護報酬改定により、2021年度の介護報酬改定が迫っています。前回の2018年度の改定では0.54%のプラスでしたが、前々回の2015年度の改定では-2.27%とかなり引き下げられました。その影響を受けた介護事業者が閉鎖(倒産)した、というのは冒頭の方で述べさせていただきました。今回の改定では、0.7%引き上げる方向で最終調整に入っているとの見解があるため、その流れにも期待して、介護従事者が安心して長期で働けるような環境ができていってほしいですね。